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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)99号 判決

原告 吉川利幸 外六名

被告 文部大臣

訴訟代理人 遠藤きみ 外二名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  行訴法上、抗告訴訟の対象となるのは、国又は公共団体の機関が行う行為のうち、公権力の行使に当たるもの、すなわち、その行為によつて直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに限られると解すべきである。

二  本件許可は、財団法人である日フイル〔編注:財団法人日本フイルハーモニー交響楽団の略〕が、その解散に当たり、「この法人の解散は、……文部大臣の許可を受けなければならない。」旨の寄附行為の規定に基づき被告に解散許可の申請をしたことに対してされたものであることは当事者間に争いがないが、現行法上、日フイルの解散について、私立学校法五〇条二項や社会福祉事業法四四条二項におけるように、所轄庁の認可又は認定を受けなければ法人の解散の効力を生じない旨を定めた特別の規定はなく、また、一般的に公益法人の解散につき、主務官庁が公権力を行使する行政庁として介入することを認めた法律の定めもないのであるから、本件許可は、その行為の実体は、何らの公権力性を有しない単なる事実上の行為(いわゆる行政指導の一種)に過ぎないものとみるほかないのであつて、前述のとおり、かかる行為は、抗告訴訟の対象とならないことが明らかである。

三  原告らは、その主張のような論法により、本件の場合、被告が日フイルの前記のような寄付行為の規定の存在を認識しながらその設立を許可するという行政処分をしたことにより、その解散についても許可という行政処分を行う権限を有するに至つた旨主張するが、行政庁が国民の権利義務に変動を生ぜしめるような行為を行うためには、必ず法令上の根拠を必要とするのであつて、行政庁が、何ら具体的な法令上の根拠なくして、国民の権利義務に変動を及ぼすような処分の権限を自らの行為によつて創設しうることは(それが当該国民の意思に基づく場合であつても)ありえないことであるから、原告の主張はとうてい採用することのできないものである。

四  更に、原告らは、本件許可が原告らの権利を侵害するものであることは明白であるから、形式的行政処分として抗告訴訟の対象になる旨主張する。しかしながら、本件許可と日フイルの解散の効力との関係をどのように解するにしろ、それは、日フイルの寄付行為の定める解散事由の存否という私法上の問題に過ぎず、本件許可が直接原告らの権利を公権力的に侵害するものでないことは前述のとおりであるから、かかる行為をことさら抗告訴訟の対象として扱わなければならない理由もないといわなければならない。

五  してみれば、その余の点につき判断するまでもなく、本件許可の取消しを求める原告らの訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 加藤和夫 石川善則)

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